先日イチロー選手が引退会見で「一番誇りに思う体験は、試合に出ないのに、ずっと一年間準備をしてきたこと」と言った時、僕は30年前の自分を思い出した。
高校卒業後、少し浮かれながら東京で友人と浪人生活を始めたが、その年の受験の失敗をきっかけに、「プチ引きこもり」になってしまったのだった。
昼夜逆転した下宿生活。4畳半の狭い部屋で、読書とラジオの日々を送り続けた。不思議と「死にたい」とは思わなかったけれど、「消え入りたい」と人との接触を避け続けた。
脛をかじり続ける罪悪感から、3浪の秋にやっと部屋から出てきて、合格。入学後も折れそうになる弱々しい心を奮い立たせて、何とか4年で卒業し、高知の会社に拾ってもらった。そんな「2年間」は、僕にとってはずっと封印し続けたい記憶であり、無かったことにしたい経験でもあった。
そして30年後の昨年、何のご縁か僕は「引きこもり支援」を始めたわけだが、本当に人生って不思議だなと思う。先日の講演で初めてこの2年間をカミングアウトしたが、消し去りたかった日々が陽の目を見た瞬間は、意外にも晴れやかであった。
だからこそ思う。「どんなことがあっても大丈夫。全ての経験が人生のワンピースなのだから」と伝え続けることが、きっと僕の使命なのだろう、と。
監事 石川 智