大切な出会い

自分の価値観に大きな変化が現れる瞬間が存在する。私も自分の価値観が大きく変化するのを感じ取った出会いがいくつかあった。今回はその一つを紹介したい。

数年前、全盲の方(以下、知人という表現をする。)と高知市内を散策する機会があった。初めは戸惑いもあったが、気さくな方ですぐに打ち解けることができた。ちょうど時間帯がお昼前であったので、「お昼ごはんにしよう」という話になった。「どこへ行きたいですか?」と尋ねたが、「どこでも構いません。」との返事であったため、私の知っている定食屋へ足を運んだ。メニューはこちらで読み上げて、知人の希望するものを注文した。

しばらくして、食事が運ばれてきた。正直、「どうやって食事をするのだろう。」との疑問が浮かんだが、その疑問はすぐに吹っ飛んだ。知人が私に手を指し伸ばし、「どこに何を置いているか教えてください。」と言ったので、私は知人の手を取り、ご飯やみそ汁、魚など、置かれているものを順に説明した。その後は、普通に会話を楽しみながら、普通に食事をした。知人は一度の説明で頭の中に配置をインプットし、後は感覚で正確にその位置へ箸を運んでいた。

私は自分が大きな先入観にとらわれていたことに気付かされた。「今までの自分は何を見てきたのだろう。」と。それは、自分の先入観や固定観念が、自分自身の視野を狭くし、浅い考え方になっていることに気付かされた瞬間でもあった。

知人との出会いで私の考え方は大きく変わった。全ての物事に対して、一度立ち止まり俯瞰して考えるようになった。その考え方の変化により、活動範囲が広がり、多くの人との出会いに繋がった。その知人との出会いは、私にとって人生の大きな転機となり、そのおかげで今の自分がいるといっても過言ではない。

このコロナ禍で、いろいろな事に制限がかかっているが、もう一度その知人に会う機会があるのであれば、私は言いたい。「ありがとう。」と。

理事  岡田一水